2001.01.11
去年の話がまだ続きます
「高校サッカー取材日記」
〜その5〜
西桑名から27分、終点の北大社駅に着いた。有人駅で1番線と2番線のホームがある。しかし予想は覆された。駅前には住宅が迫っているものの、500m続く参道も、社も無かった。駅の側に北大社の名の由来に関する碑か標が立っていたような記憶が微かに残っているが定かではない。大きな駅という予想に反し、駅前に想像していた筈のタクシー乗り場が見当たらなかった為に焦って気が動転し、それどころではなかったからだろう。切符を集めている駅員に競技場の場所を聞く。歩いて10分から15分だと言う。踏切を渡らずに道なりに行くと橋があるので、橋を渡ったら左に折れて川沿いに暫く進むと道がそれ以上進めないくらい細くなる、その手前を左に折れて川を渡ると役場などの建物が集まった所があるのでその辺りだ、と言う。歩くしかなかった。
道なりに歩いていき道路のような橋を渡ると、確かに川沿いに畦道のような細い道が繋がっている。言われた通りその川沿いを歩いていく。水量が少ない川で、細い川の水底がすっかり顕わである。突然音がする。
がさがさがさ。
人の身の丈程に伸びる草の中から、鷺であろうか、鳥が飛び立った。更に進むと、つがいであろうか、もう一羽が草の中から姿を現わし前の鳥と同じ方向に飛び立っていった。川縁で餌を啄ばんでいたのであろう、人が近付いたのを警戒して飛んだらしい。
細い川と田に挟まれた小道を進むと、目の前を横切るアスファルト道路にぶつかった。その先真っ直ぐ続く道は、先細りになって進めそうにない。ここで左に折れ、再び川を渡る。右手に役場の建物が見えた。探してはみるが、体育館などはあっても競技場が無い。駐車場にいた人に尋ねてみるが、その人もここの土地の人間ではないので分からないと言う。うろうろしていると警備員が出て来たので競技場の場所を尋ねると、私から目をそらすように別の方を見やって指さした。指の先には、野球場の照明灯が見えた。あの近くらしい。
再び坂を上り下りして、また川を渡る。東北と違う暖かい陽射しの下で、自分の額が小さな汗の粒でびっしりうまっていくのが分かる。野球場の右手に競技場が見えた。これだ。小走りになる。野球場を過ぎた辺りで競技場の中が垣間見える。既に試合をやっている。急いで客席の入口から階段を駆け上る。見ると試合をしているピッチの外に草津東イレブンがウォームアップをしている。実はこの競技場に集まった別の高校同士の練習試合が延びていたのだ。
幸いに30分程遅れて始まった草津東の練習試合を全て見る事が出来た。守りから攻めに転じる速さは勿論、ゴール近くになった時の攻撃の速さとタッチ数の少ないプレー、大きくサイドを変えるパスワーク、シュートに至るまでの多彩な攻撃パターン等々、正確な技術と状況判断に裏打ちされたプレーが惜しげも無く目の前に展開され、正直手強いチームと郡山高校は初戦で当たったものだと痛感した。それだけ大会一週間前の草津東高校の仕上がりは良かったのだ。
試合後小林監督に挨拶を済ませると、同じく全国高校サッカー実況担当のIアナウンサーがいるのに気が付いた。別の高校の取材で競技場に来ていたのだ。私が北大社駅から歩いてきた事を話すと、Iアナウンサーは桑名駅からタクシーで来たとおっしゃった。かなり料金がかさんだらしい。尋ねられたので、私は駅員の説明と逆の順序で北大社駅までの道順を告げた。そう言えば、Iアナもこう聞いてきたのだった。
「ええと、『きたたいしゃ』でしたっけ?」
(つづく)
〜その5〜
西桑名から27分、終点の北大社駅に着いた。有人駅で1番線と2番線のホームがある。しかし予想は覆された。駅前には住宅が迫っているものの、500m続く参道も、社も無かった。駅の側に北大社の名の由来に関する碑か標が立っていたような記憶が微かに残っているが定かではない。大きな駅という予想に反し、駅前に想像していた筈のタクシー乗り場が見当たらなかった為に焦って気が動転し、それどころではなかったからだろう。切符を集めている駅員に競技場の場所を聞く。歩いて10分から15分だと言う。踏切を渡らずに道なりに行くと橋があるので、橋を渡ったら左に折れて川沿いに暫く進むと道がそれ以上進めないくらい細くなる、その手前を左に折れて川を渡ると役場などの建物が集まった所があるのでその辺りだ、と言う。歩くしかなかった。
道なりに歩いていき道路のような橋を渡ると、確かに川沿いに畦道のような細い道が繋がっている。言われた通りその川沿いを歩いていく。水量が少ない川で、細い川の水底がすっかり顕わである。突然音がする。
がさがさがさ。
人の身の丈程に伸びる草の中から、鷺であろうか、鳥が飛び立った。更に進むと、つがいであろうか、もう一羽が草の中から姿を現わし前の鳥と同じ方向に飛び立っていった。川縁で餌を啄ばんでいたのであろう、人が近付いたのを警戒して飛んだらしい。
細い川と田に挟まれた小道を進むと、目の前を横切るアスファルト道路にぶつかった。その先真っ直ぐ続く道は、先細りになって進めそうにない。ここで左に折れ、再び川を渡る。右手に役場の建物が見えた。探してはみるが、体育館などはあっても競技場が無い。駐車場にいた人に尋ねてみるが、その人もここの土地の人間ではないので分からないと言う。うろうろしていると警備員が出て来たので競技場の場所を尋ねると、私から目をそらすように別の方を見やって指さした。指の先には、野球場の照明灯が見えた。あの近くらしい。
再び坂を上り下りして、また川を渡る。東北と違う暖かい陽射しの下で、自分の額が小さな汗の粒でびっしりうまっていくのが分かる。野球場の右手に競技場が見えた。これだ。小走りになる。野球場を過ぎた辺りで競技場の中が垣間見える。既に試合をやっている。急いで客席の入口から階段を駆け上る。見ると試合をしているピッチの外に草津東イレブンがウォームアップをしている。実はこの競技場に集まった別の高校同士の練習試合が延びていたのだ。
幸いに30分程遅れて始まった草津東の練習試合を全て見る事が出来た。守りから攻めに転じる速さは勿論、ゴール近くになった時の攻撃の速さとタッチ数の少ないプレー、大きくサイドを変えるパスワーク、シュートに至るまでの多彩な攻撃パターン等々、正確な技術と状況判断に裏打ちされたプレーが惜しげも無く目の前に展開され、正直手強いチームと郡山高校は初戦で当たったものだと痛感した。それだけ大会一週間前の草津東高校の仕上がりは良かったのだ。
試合後小林監督に挨拶を済ませると、同じく全国高校サッカー実況担当のIアナウンサーがいるのに気が付いた。別の高校の取材で競技場に来ていたのだ。私が北大社駅から歩いてきた事を話すと、Iアナウンサーは桑名駅からタクシーで来たとおっしゃった。かなり料金がかさんだらしい。尋ねられたので、私は駅員の説明と逆の順序で北大社駅までの道順を告げた。そう言えば、Iアナもこう聞いてきたのだった。
「ええと、『きたたいしゃ』でしたっけ?」
(つづく)
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